2014年1月23日木曜日

最近読んだ本 赤瀬川隼「人は道草を食って生きる」


赤瀬川原平さんの随筆集と思って図書館から借りてきて読み始めたら、なんだか文体が違う。変だなと思って著者の名前をよく見ると、兄の隼さんだった。それで本を閉じようとしたのだが、ふと別のページを開いたところ、初めてパリへ旅したときの文章が載っていたので、ちょっと読んでみた。すると、その旅のようすが僕のとたいへんよく似ていたので、おや、と思ってつい最後まで読んでしまった。

似ているというのは 初めてのパリ旅行が一人旅で、年齢が隼さん45歳、僕は53歳ともうかなり年を食っていたうえ、期間が1週間ほどで、トイレが共同という安宿に泊まって独りでパリの街中をうろつき回り、うち1日は日帰りで郊外へ出かけた、というところだ。

一つだけ違うのは、日帰りで出かけた先が僕はシャルトルの大聖堂で、隼さんはフォンテーヌブローの森のはずれの村バルビゾンだったことで、これは絵画に対する関心の度合いにだいぶ差があるせいかな。

隼さんも50歳頃までは勤め人で、おいそれと「外国へちょっと旅行して来ます」と言うわけにはいかなかったようで、1週間の休暇が精一杯という点も似ている。

成程、似たような境遇で似たようなことを企てる人がいるものだ、と仲間が出来たようで嬉しくなってしまった。

僕はその後、フランス語が読めるようになりたいと思い、独りで練習をして(つまり、話したり書いたりはできないということだ)、お陰で去年の秋にはProust「 À La recherche du temps perdu」を3年がかりで読み上げてしまったが、隼さんはその後小説作りに精を出して直木賞を64歳で受賞したのだから、こればかりはスッポンとほどの開きがある。

けれども、この勘違いのお陰で、この世にはよく似た人がいるというのがわかって、何となく嬉しくなっている今日この頃だ。


 赤瀬川隼「人は道草を食って生きる」 主婦の友社 2001年刊


                   (2014年1月23日記)