岩波新書の坂口謹一郎「日本の酒」に、イギリス人エドワード・キンチが明治10年に初めて市販の日本酒の成分を分析した結果と、昭和38年に吉田弘が分析した結果が比較されている。
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| 明治と昭和の清酒成分比較表 |
これを見ると、明治の昔はアルコール度数が今より少し高く、酸が多くて非常に辛口であったようである。それに比べて昭和元禄の世の日本酒はグッと甘口になっている。
「泰平の甘口、乱世の辛口」とも言われているらしいが、この頃から、「甘口の酒が多いとお嘆きの貴兄に・・・」という日本酒のコマーシャルをよく耳にするようになったのには、こういう事情があったのである。
酒の基本的な性格は、「さわりなく水の如くに飲める」ところにあって、うちに千万無量の複雑性を蔵しながらさりげない姿こそ酒の無上の美徳であると、坂口先生は断じておられるが、その意のとおりの「上善如水」という名のついた酒もある。
老生もかつて灘の清酒鑑定会に参加したり、大吟醸数十種飲み比べというのをやったことがあるが、そこで何より驚いたのは、酒蔵元ごとに日本酒の味は千差万別であり、多彩であるということだった。その微妙な味わいの違いは極めて繊細なもので、それは日本人の感受性の繊細さに通ずるところがあると思われた。
ということで、今夜の晩酌は月桂冠の熱燗を1本、冷奴に鰹節と醤油をかけて、吹き出る汗を団扇で払いながら、猿股一つでいただくことにする。
熱燗や汗水たらし大団扇
(2014年7月31日記)

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