2014年8月10日日曜日

坂口謹一郎「日本の酒」


坂口謹一郎「日本の酒」をさっと読んだ。ちょうど50年前に刊行された本なので、内容には少々古いところもあるが、日本酒の世界が幅広く語られていて、楽しく読ませてもらった。著者は醗酵学の泰斗だが、酒について歌った歌集をものしているなど、文人気質なところもあるようで、文理両面に通じている。

「いずれの国が、自国の酒をいやしめて、他国の酒のみを尊ぶ国があろうか。わが日本にもしそのようなことがおこるとすれば、それは、いったいどういうわけであろうか。酒を造るものは酒造家であるが、これを育てるものは国民大衆でなければならない。国民一般が(略)高貴な鑑賞能力を失い、真の酒の良さというものを理解できなくなり、また酒造家の方も自信を失ってしまったら、日本の酒は亡びるよりほかはない。」と、はしがきにあるが、今の世はその恐れなしとはいえないのではないだろうか。

それにしても遺憾に思うのは、例えば宮中晩餐会などで、乾杯がシャンパンやワインで行われ、日本酒が使われるのは殆どないらしい、ということだ。国会での質問に応えて、外務省が応えた資料をネットで読んでみたが、ワインに比べて日本酒の購入額は一桁少ないという情況のようである。

灘五郷の酒造家たちも「ぜひ日本酒を使って欲しい」と願っている筈だが、日本の酒を育てるという観点からも、国民大衆の先頭に立ち、もっと日本の酒を尊んで用いていただいてよいのではないか。

   坂口謹一郎「日本の酒」岩波新書 1964年刊   
                                             
                                               (2014年8月10日記)

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