今朝、ネットの「青空文庫」を覗いたら、新着情報の欄に見知らぬ名前の作者の作品が2つ出ていたので、読んでみた。
二つとも短い詩で、たいへん平易な言葉で綴られている。
そのうちのひとつ、「ある夜」という詩
月が変圧器にひっかかっているし
風は止んだし
いやにあつくるしい夜だ
人通りもとだえて
犬の遠吠えだけが聞こえる
いやにおもくるしい夜だ
エーテルは一時蒸発を止め
詩人は居眠りをするような
いやにものうい夜だ
障子から蛾の死がいが落ちた
"月が変圧器にひっかかって"とか、"エーテルは一時蒸発を止め"という句で、対象がクリアに把握され、"いやに○○○い夜だ"というフレーズが3回畳み掛けるように繰り返されて、妙にリズミカルで、最後に一転して、"障子から蛾の死がいが落ちた"、となんだか不気味なキリで終わっている。この最後の一行での転調が、夜のどこか不吉なものうさを実にくっきりと象徴的に表現していて、ううっ、とうならされてしまった。
萩原朔太郎や辻征夫などに通じるところのある、まったく古さを感じさせない詩だ。こういう詩なら、人通りの少ない現代詩の世界にも、多くの読者を引き寄せることができるのではないか。
もうひとつは「おもちゃの汽車」という題の、人形の手やキューピイさんの首が事故で飛んでしまった、というマザーグースばりのちょっとグロテスクなユーモアのある短い詩である。
ゴットン ゴットン
汽車が行く
ケムリをはいて
汽車が行く
アレアレアレアレ
脱線だ
お人形さんの
首が飛び
キューピイさんの
手が飛んだ
死傷者優に三十個
オモチャの国の
大椿事
作者の名は「竹内浩三」といい、三重県の宇治山田市(現伊勢市)に生まれ、昭和20年4月、24歳の若さでフィリピンで戦死しているから、亡父と同世代だ。
松坂市の本居宣長記念館に遺品が残されているらしい。ぜひ訪ねてみたいな。
(2014年8月5日記)
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