中学生から高校生だった頃、NHKテレビで、出場者に曲のメロディを一節聴かせてその題名をあてさせるというクイズ番組があった。司会は確か、髪の黒い、しかし額の中央から頭頂にかけて禿げ上がった尾島という名のアナウンサーで、終始笑顔で学校の先生が生徒を諭すような話し方をした。今でもその表情や語り口をありありと思い起すことができるほどだから、かなり熱心に見続けたように思う。
小さい頃から音楽が好きで、この番組もお気に入りのひとつだったが、テレビの前に坐っていていつも驚かされたのは、クラシック、ポピュラー、歌謡曲と種類を問わず出場者が実によくいろんな曲の名前を知っていることだった。どうしたらあれだけたくさんの曲を聴くことができたのか、感嘆すると同時に不思議でならなかった。今のように音楽がいたるところに溢れているというわけではなく、音楽専門といえばコンサート、LPレコードぐらいしかなかった頃である。それだけにそのような機会に恵まれている出場者をうらやましく思ったものだ。テレビは家族みんなのものだし、音楽番組は限られている。コンサートやレコードは高価でとても中高生の手の届くものではなかった。唯一の手段がラジオだったが、当時はまだ中波放送と短波放送しかなかった。時々、NHKが第1放送と第2放送を同時に使い、ステレオにして放送するという番組もあって、バルトークの曲をそうして聴いたこともあった。
先日、この番組のことをふと思い出し、ネットで調べてみると、「シャープさん・フラットさん」という題名で、1962年から1970年まで8年間、毎週続けて放映されていたことがわかった。音楽番組を主軸とするNHKのFM放送が始まるのが1969年(昭和44年)からなので、FM放送の開始と前後してこの番組は終わったようだ。今思えば、音楽に対するいささか教養主義的な匂いもしたけれど、音楽への興味を自然と呼び起こしてくれたありがたい番組であった。
(2014年8月4日記)
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