数多の日本映画の女優のなかで原節子と高峰秀子は抜きん出て素晴らしい。
この二人の映画を見ることができたのは、わが人生の幸福に欠かせないものだったと思っている。
その一人、原節子の魅力が最もよく発揮されている作品は何か、といえば、それは「白痴」だと思う。黒澤明がドストエフスキの原作に拠って1951年に発表した「白痴」で、那須妙子を演じたのが最高だ。
もともと彫が深く目鼻立ちのはっきりした容貌と骨太の体つきは日本人離れしていて、世上人気のある小津安二郎の「東京物語」や「晩春」に登場する和風の清純な役柄より、この「白痴」に見られるようなバタくさい「運命の女」を、暗い表情の「悪女」風に演じる方が大いに似合っていると思う。
台詞回しをさらに鍛えてもらって、例えばラシーヌの悲劇や三島由紀夫の「サド侯爵夫人」に登場する原節子の姿を見てみたかったものだ。
黒澤の「白痴」は4時間半近い上映時間を松竹の意向で3時間弱にカットされて公開され、キネマ旬報ベストテンにも入らず、あまり評判になっていないが、後年のどの黒澤作品より芸術家黒澤の客気溢れた意気込みを感じさせてくれる大作である。どこかでこのカットされる前のオリジナルの映像を見ることができないものだろうか。
(2013年10月29日記)
故 熊井 啓監督が、四国まで出かけて、この作品のノーカット版を確認したというのを聞いたことがあります。
返信削除何かの事情でまだ表には出て来ませんが、何時かDVDででも観られたら、と待ち望んで居ります。
お報せいただいて、ありがとうございました。
削除グーグルで検索してみると、いろんな方が言及されているのを知りました。存在するのなら是非観てみたいものですね。短縮版のあの迫力からすれば、見事な大傑作だろうと予感いたします。戦後の窮乏の時期にあれほどのものが作れたということに驚くばかりです。
四国の現在の持ち主が、製作時のドサクサに0号プリントを持ち出した人か、全く別人か、その辺のところは熊井 啓監督は明らかにしていませんん。
削除恐らく持ち主との間に、何らかの約束事があったのでしょう。
時効が成立していますから、プリントを持ち出した人と現在の持ち主は、処罰を受ける事はありませんが、黒澤プロに対して法外な値段を吹っ掛けたと言うことをチラッと聞いた事があります。
それにこの映画は、松竹作品です。
松竹は今は潰れてありませんが、黒澤プロとの間に何かしこりがあるのではないでしょうか。
完全版は4時間25分で、大傑作とおう噂です。
この傑作を結果的にこのようにしたおは松竹の「犯罪」だと言えましょう。
この作品のファンは多いのです。
心ある人達にによって、一日でも早く、完全版が世に出る事を切に期待します。」
もとよりデジタルによるリマスターは必要でしょうが、この作品はモノーラルで撮影されています。色彩の退色の処理が要らない分だけ、処理は簡単ではないのでしょうかね。