2013年9月9日月曜日
行方昭夫「モームの「謎」」を読む
図書館から借りてきて読んだ。
平明な文章で、内容もわかりやすく、著者の永年の研究の成果が惜しみなく語られている。
イギリス人の作家、サマセット・モームの作品はどれもとても有名だが、実はあまり読んでいない。「雨・赤毛」「サミングアップ」「月と六ペンス」「アシェンデン」を読んだだけで、「人間の絆」も「お菓子と麦酒」も未読である。
モームはかつて大学受験問題の常連で、前2冊は受験生時代に原文で読んだ。あとの2冊は最近に読んだが、とても面白かった。だから、未読の作品もそのうちに読むつもりの本のリストに入れている。
モームの生い立ち、性格、結婚、離婚、女性観、同性愛、スパイ歴、訪日時のモームの印象、著者とモームの架空インタビューなど、盛りだくさんの「謎」が盛られていて、どれも興味津々である。
なかでも面白かったのは「同性愛」に関する解説で、秘書との関係など初めて詳しく教えてもらった。本人は公言していないけれど、なるほどモームは同性愛者であったと納得させられる内容である。
訪日時に日本の英文学者やモーム愛好家、出版社員などがモームから受けた印象を紹介しているところは、まさに著者がその場に立ち会っていたかのような臨場感に溢れていて、これも劣らず面白かった。基本的にはシャイで人見知りするが、気配りに長けていて、優しい人という評価を得たようだ。
モームの人生観には東洋的諦念に通ずるものがあり、仏教との親和性が認められるという指摘も、なるほどと思った。
モームという人をイギリス人風の距離感で、暖かく、丁寧に、愛情を込めて描いていて、読後、人の内面の広がりというものに改めて目を向ける機会が与えられたように思った。
行方昭夫「モームの「謎」」 岩波現代文庫(オリジナル) 2013年刊
(2013年9月9日記)
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