2013年9月16日月曜日
加藤隆「旧約聖書の誕生」を読む
旧約聖書は読むのに骨が折れる書物である。
モーセ五書で腰が砕けたまま、長い時が過ぎてしまった。
これではならじと、一念発起して再入門を志し、本書を紐解いた次第。
入門者と銘打っているが、430ページの大部なもので、旧約聖書の各書の内容と特徴を多くの引用をまじえて言及している。
著者の言によると、旧約聖書は冒頭から順に読んで行っては理解しにくい書物で、途中で挫折必定らしい。冒頭、そう言われてこれまでの腰砕けが救われた思いがした。
著者はかつてストラスブール大学の学生寮で神学生と勉強会を行った際に、フランス人の男子学生が用いた方法をとる。即ち、古代イスラエル民族の歴史の展開に従って旧約聖書のテキストを選んで順次検討する。この方法で旧約聖書の理解が進み、試験にも合格したという。
出エジプトから始まって、イスラエル統一王国、北王国、南王国、バビロン捕囚.ペルシャ帝国期、ギリシャ・ローマ期と順を追ってテキストの成立事情や内容の解説がある。
王国の南北分裂後、南王国がイスラエルの民族的まとまりを維持したことの意義、バビロン捕囚によるユダヤ教の成立事情、ペルシャ帝国の異民族支配政策とユダヤ教聖書の成立の関連性、ギリシャ語訳がヘブライ語聖書に劣らぬ権威を持った背景にあるギリシャ・ヘレニズムの政治的支配など、著者の見解が各所に述べられている。
あとがきに、本格的に研究するなら、聖書を読むためのヘブライ語、ギリシャ語、研究のため英独仏語の習得を初め、相当の圧力があると言う。そして聖書はそれ自体に価値があるのではなく、神について語るから価値があるのだから、神をないがしろにする聖書中心主義(即ち「学」)よりも、「生」即ち神や人の側を選ぶべき、と入門書らしからぬ警告を発している。
加藤隆「旧約聖書の誕生」 筑摩書房 2008年刊
(2013年9月16日記)
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